星のない世界 紳士とアヒル


星を探すきみ

No.11 星を探すきみ

眠れない夜だった。
気分転換にそこら辺を散歩していると、雪原のように白い砂漠を見つけた。
その純白さに惹かれて、思わず足を踏み入れた。
だが砂に体を取られて、自由に前へ進めない。
もたもたしてると、影が被さってきた。
顔を上げると、大きな月を背負った恐竜の化石がこちらを見ていた。

「ここは足場が悪い。お乗りなさい」
ぼくは腰を落としてくれた化石の背中に、素直に乗った。

 

「星をね、探しているんです。遠い遠い昔に見た星を。もう随分長いこと」

砂を踏む一つの足音しかしない空間で、化石が静かに語り出した。

この世界には星がない。
この世界の住人は、きっと誰もが星を探している。

ぼくも、あの崩れた部屋にいた星を強く求めた人も。

そんなこと、言わずともみんな分かっていることなのに、なぜ化石がわざわざ語りだしたのか。

ぼくは考え、化石に聞いた。

「きみの『星』って何?」

星は星だ。それ以外ないはずなのに。
ぼくはなんだか、彼は違う『星』を求めているような気がしてならなかった。

化石は立ち止まり、下を向いた。

「なんでしょうね。ただただ星が見たいと言う気持ちばかりで、考えたこともなかった」

長い沈黙の後。
風が吹き、白い砂が宙を舞った。
月明かりで輝く砂粒が、夜空に咲く星のようだった。

「…きっと、このような煌びやかなものだと思います」

化石は黙って、しばらく砂を見つめていた。

 



茜色の空、黄金色の花畑

No.12 茜色の空、黄金色の花

真っ白な花畑だった。
辺り一面に広がる白い花は、青い青い空によく映えた。

だが、日が沈みかけると、花が一斉に色を変えた。

夕日に輝く、金の色。

夕暮れの束の間だけ見られる金の絨毯は、どんな黄金よりも価値があるように思えた。

 



丘に上がったクジラ

No.13 丘に上がったクジラ

地平線まで続く大きな草原に、この場にまったく似合わないクジラがいた。

クジラは身体中が傷だらけで干からびており、かなり弱っているのがわかった。

あたりに海はない。遠いところから来たのだろう。

「どうしてこんなところへ?」

ぼくが聞くと、クジラはゆっくりと答えた

「花をね、一度でいいから見てみたかったんだ。もう満足さ。私のことは、気にしないでくれ」

 

クジラは生気の薄い老いた目で、静かに笑った

 



夢のおわり

No.14 夢のおわり

懐かしい街を見つけた。
ぼくが子供の頃住んでいた街だった。

なんでこの世界に、下の世界の街があるんだろう。
その疑問は、街へ入るとすぐに解けた。

街は荒れ果て、息をしていなかった。
この街は生きることが出来ず、こちらへ来てしまったのだろう。

 

この街を訪れるのは、どれくらいぶりだろうか。

かつてここには百万人が暮らしていた。
少なくともぼくが住んでいた頃は、それくらいの人がいたはずだ。
昼も夜も人で溢れ返り、一晩中街は眠ることがなかった。
外を歩けばいつも誰かいた。知っている人も、知らない人も。

もう誰もいなくなって久しいのだろう。
建物は倒壊が進み、道という道には雑草が生い茂っている。

 

広い広い街だった。
ここには沢山の人がいて、沢山の夢と希望があった。
今はもう、見る影もない。


街には、最後を彩るかのように、色鮮やかな花が咲いていた。
昔の栄華を彷彿させるような、あの頃のネオン輝く夜景を思い出させるような、七色の花。

 

やがて花は散っていく。
空高く舞う花びらと共に、夢はおわりを告げた。

 



ひとりぼっちと、ひとりぼっち

No.15 ひとりぼっちと、ひとりぼっち

華やかな街から離れた橋の上。ひとりでいるきみに会った。

きみは流木の上で、静かにぼくを見てきた。

きみもひとりなんだね。話しかけても、返事はない。

それでもぼくは、きみに会えて、少しだけほっとした。

 



赤い花

No.16 赤い花

青い川を下っている途中、赤い花が流れてきた。

偶然、川に落ちた花かも知れないが、
ぼくには誰かの思いが花に乗せられて、川に流されたように感じた。 

流したい気持ちは、ぼくにもある。

でもぼくは、まだ心に溜まる痛みすらも、手放して流す勇気がない。
手放してしまえば楽になるのに、それをしてしまうと全てが終わってしまうようで、どうしても手放せない。

手放したいのに、手放せない。

真っ赤な花はぼくらよりもずっと早く、下流へと流れて行った。

 



森の化石

No.17 森の化石

ここは豊かな森だった。
天まで届く大きな木と、ベッドに出来るくらいの大きな花。

きっとどれも色鮮やかで、鼻を包むような良い香りが漂っていたんだろう。

でもそれは、遠い遠い昔のこと。
今はもう、森ごと化石になってしまっている。

花は色あせ、岩のように崩れて散っていく。
かつてあった色も香りも、ぼくは知ることができない。

だけど、とっくに枯れている森なのに、小さな草花が茶色い化石を覆っていた。

 

古い森から新しい森へ。
ここは、じきに生まれ変わるのだろう。

まるで、時間の流れを目で見ているようだった。

 



No.-- 花びらいちまいだけ

わたしは、ここからうごけない

わたしは、きみのそばにいてあげられない

でも、わたしはいつもきみをみまもっているから

きみがさみしいときも、つらいときも、ずっとずっときみのみかただから

なにもしてあげられないけど、わたしのおうえんを、はなびらいちまいだけうけとって

すこしでも、きみのたすけになればいいな

あいしてるよ

いままでも、これからも

 



鳥銀河

No.18 鳥銀河

新月の夜だった。

いつも見ている大きな月の姿形も無く、手を伸ばしたら吸い込まれそうなほど、空が黒かった。

暗闇というのは本能的に怖いものなのか、僕はいつも以上に心があやふやで、眠れない夜を過ごしていた。

夜更けの真ん中頃だったろうか。
白く光る鳥があちこちから現れ、空の一点に集まり出した。

やがて無数の鳥が大きな光になり、銀河を作り出した。
落ちてくる羽がきらきらと輝き、まるで辺り一面に星屑が降っているようだった。

彼らがなんのために集まったのか、僕にはわからないけど、

真っ暗な夜の真っ暗な気分が、彼らのおかげで少しだけ幸せな夜になった。

 



大地の記憶

No.19 大地の記憶

人も緑も枯れ果てた土地だった。
あるのは葉っぱを付けない木と、かさかさの土だけ。
もう季節もわからない、さみしくて寒い場所。

でも、大地は春夏秋冬を覚えていて、こうして土に季節を「映して」くれる。
遥か昔から積み重ねられてきて大地の記憶は、時が経ってもそう簡単には消えないらしい。
きっと、この土地が豊かだった頃の思い出までが、強く残っているんだろう。

今は秋が沈んで冬が浮かび上がってきている。
雪すら降らなくなったこの場所でも、近いうちに真っ白な雪原が見られるのだろう。

 



配管の街

No.20 配管の街

配管だらけの街があった。
どこに行っても灰色の管ばかりで、草木一本すら生えていない。

この無機質で色の無い場所でも、夜になるとネオンのように輝く。
無数の配管が、色鮮やかに光る電気ホタルたちの住処になっているからだ。

ホタルたちは電気を食べながら、管の中を行ったり来たりしている。
きっと遊んでいるのだろう。小さなホタルにとって、ここは遊園地みたいなものだ。

 

人の姿はほとんど見かけなかったけど、ここはいつも賑やかで明るい。

活気のある場所が少ないこの世界で、ここはぼくの癒しの場所になった。

 


電気の城へ続く道
電気の城へ続く道
電気を発する菅の束・電気の城
電気を発する菅の束・電気の城